企業が、従業員のキャリアアップや待遇改善を図る際に利用できる支援制度が「キャリアアップ助成金」です。助成額も大きく使いやすい制度ですが、コースが多く、手続きが複雑に感じることもあるかもしれません。
今回はキャリアアップ助成金の申請方法や、よくある失敗例とその対策をまとめました。キャリアアップ助成金の活用を検討されている方は、この手順ガイドを参考にしてみてください。
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この記事の目次
キャリアアップ助成金の申請前に知っておくべきこと
キャリアアップ助成金の申請をする前に、目的や、コースごとの違いを理解しておきましょう。また、要件を満たしていなかったり、書類に不備があったりすると助成を受けることができません。
まずは、キャリアアップ助成金の申請前に確認しておきたい3つのポイントを見ていきましょう。
1.助成金の目的と種類を理解する
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者(いわゆる非正規雇用の労働者)の、企業内でのキャリアアップを促進するものです。正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成します。
令和6年度は、以下の2つの支援と6つのコースが設定されました。
①正社員化支援 | |
■正社員化コース | 有期雇用労働者等を正社員化する |
■障害者正社員化コース | 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換する |
②処遇改善支援 | |
■賃金規定等改定コース | 有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を改定し3%以上増額する |
■賃金規定等共通化コース | 有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を、新たに規定・適用する |
■賞与・退職金制度導入コース | 有期雇用労働者等を対象に、賞与または退職金制度を導入し、支給または積立てを実施する |
■社会保険適用時処遇改善コース(令和8年3月31日まで) | 有期雇用労働者等を新たに社会保険に適用させるとともに、収入を増加させる(手当支給・賃上げ・労働時間延長)または、週所定労働時間を延長し、社会保険に適用させる |
2.要件を確認する
対象となる事業主の、全コース共通の要件は、以下の①~⑤です。
①雇用保険適用事業所の事業主であること
②雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いていること
③雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に係るキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けること
④実施するコースの対象労働者の労働条件等に関する書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができること
⑤キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組むこと
このほかに、コースごとの要件があります。該当するものはすべて、確認しておきましょう。
3.必要な書類を漏れのないよう準備する
助成金や補助金の審査は、提出した書類を通じて行われます。内容はもちろんですが、まずは必要な書類が不備なく揃っていることが大切です。
書類の不足や、記載事項の間違いは、意外と多いもの。せっかくのキャリアアップ計画も、書類に不備があっては採択されないかもしれません。
間違いのない書類を用意するためには、準備期間に余裕を持ち、見直しをしたり、ほかの人に確認してもらったりすることも重要です。
なお、提出が必要な主な書類は、以下のとおりです。
主な書類 |
キャリアアップ助成金支給申請書 |
事業所確認票 |
賃金台帳等に関する確認書 |
その他、コースごとの添付書類が指定されています。
キャリアアップ助成金の申請の手順とは
キャリアアップ助成金では、各コース実施日の前日までに労働組合等の意見を聞いて「キャリアアップ計画」等を作成し、提出することが必要です。ここではキャリアアップ計画の作成や書類の提出の基礎知識をまとめました。
なお、制度の見直し等により、支給申請様式は改定が行われます。申請様式や支給金額は各コースの取組を行った日で変化しますので、支給申請を行う際は、最新の様式を確認してください。
キャリアアップ計画書の作成
キャリアアップ計画書とは、社内の人材確保等の現状を分析し、有期雇用労働者等のキャリアアップを図る上での課題について検討を行い、その対応方針案を踏まえて作成する計画です。
有期雇用労働者等のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、「対象者」「目標」「期間」「目標を達成するために事業主が行う取り組み」などのおおまかなイメージを記載します。記載例は、ホームページにも公表されていますので、事前に確認しておきましょう。
なお、キャリアアップ計画書は当初の予定を記載するものです。キャリアアップ計画書の内容等は随時、変更できます。変更後は管轄労働局に「キャリアアップ計画変更届」を提出してください。
また、キャリアアップ計画書作成にあたっては、以下の点に留意点してください。
- キャリアアップ管理者を決める
- 3年以上5年以内の計画期間を定める
- 活用する助成金のコース(メニュー)に沿って記載・選択する
- 有期雇用労働者等を含む事業所における「全ての労働者の代表」から意見を聞く
労働者のキャリアアップのために必要なキャリアアップ計画を策定する際には、「有期雇用労働者等のキャリアアップに関するガイドライン~ キャリアアップ促進のための助成措置の円滑な活用に向けて~」も参考にしてください。
申請書類の提出
前述のとおり、キャリアアップ計画は各コース実施日の前日までに作成・提出が必要です。その後、取組を実施し、支給申請を行います。
全体の流れは、以下のとおりです。
【共通】
①キャリアアップ計画の作成・提出
【正社員化支援に関するコース】
②就業規則等の改定
③就業規則等に基づく正社員化
④正社員化後6か月の賃金の支払い
【処遇改善支援に関するコース】
②取組の実施
③取組後6か月の賃金の支払い
なお、支給申請は取組後6か月の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に行います。
全体の流れは、以下の図を参照してください。
出典:厚生労働省
申請でよくある失敗例と対策
助成金の申請は、慣れていないと難しいものです。申請書や添付書類の内容に不確かな点があると、採択されないだけでなく、意図せず不正受給になってしまうこともありえます。
ここでは主な失敗例と、その対策を見ていきましょう。
書類の不備
キャリアアップ助成金に限らず、書類の不備は、よくある失敗例のひとつです。必要な書類が揃っていない・記入漏れがあるといった失敗は、慣れている人でも起こり得ます。
書類の不備や提出漏れを防ぐには、チェックリストが便利です。また、複数人で書類をクロスチェックすることで、見落としを防ぐことができます。
いずれの場合も、余裕を持って準備を行い、焦らず確認していくことが大切です。
計画が実現不可能な場合
高すぎる目標設定や会社の実情に合わない計画は、審査員に不安を与えます。計画をどのように実現していくか、なるべく具体的な手順や数字を記載しましょう。
また、過去の実績を踏まえて、目標などを現実的なものに見直すことも有効です。経営陣や人事部門と十分に協議し、実現可能な計画を立てましょう。
必要に応じて社会保険労務士などの専門家のアドバイスを受けるのもおすすめです。
要件を満たしていない
キャリアアップ助成金では、共通要件のほかに、コースごとの要件が設定されています。該当するすべての要件を満たしていることが、助成金の交付を受けるための条件です。
助成金の要件を細かく確認し、内容をよく理解しておきましょう。不明点があれば担当窓口に問い合わせ、曖昧なままにしておかないことも重要です。
不正受給のリスク
申請時に「これくらいなら大丈夫だろう」といった軽い気持ちで書類の不備を放置したり、必要な手続きを自己判断で省略してしまうと、予期せぬ形で不正受給とみなされるリスクがあります。たとえ悪意がなくても、本来条件を満たしていない助成金を受給したり、受給しようとした場合、それが不正受給と判断されます。
不正受給が発覚すると、助成金の返還請求に加え、企業名の公表などの厳しいペナルティを課されることがあります。これは企業にとって大きなダメージとなり、今後他の助成金を申請する際の不利な扱いはもちろん、社会的な信用を大きく損なう恐れもあります。
不正受給を防ぐためにも、助成金の趣旨や規則を十分に理解し、疑問点があれば必ず事前に確認しておきましょう。
まとめ
キャリアアップ助成金の申請は、従業員の処遇改善や企業の成長に大きく寄与する重要な取り組みです。採択されるためのポイントは、助成金の目的と種類を正確に理解し、申請要件を細かくチェックして確実に満たすことです。
また、必要書類を漏れなく準備し、内容を精査することも重要です。現実的で実現可能なキャリアアップ計画を立て、申請期限を厳守し、余裕をもって手続きを進めましょう。
従業員のスキルアップと待遇改善を通じて、企業の持続的な成長を目指してくださいね。